2025/12/11
なぜ今の工場は1台にかかる時間が伸びているのか?数字が示す“現場の変化”

クールペイです。
最近、「1日の入庫台数は昔とあまり変わらないのに、なぜか毎日バタバタしている」「夕方になると、必ず予定が押している」。そんな声を全国の工場からよく聞くようになりました。
感覚的には「忙しくなった」と感じていても、実際にどこで時間を使っているのかを数字で把握できている工場は、まだ多くありません。 1台あたりの作業時間が少しずつ伸びているのか。
それとも、入庫のタイミングや段取りの問題なのか。
あるいは、制度や車両側の変化によって、やるべきことそのものが増えているのか。 今回は、モデルデータをもとに「なぜ今の工場は1台あたりの時間が伸びているのか」を整理しながら、とくに2024年から本格導入が始まったOBD検査付き車検(いわゆるOBD車検)が、現場にどんな影響を与えているのかもあわせて見ていきます。 「うちもなんとなくそんな気がしていた」という方は、頭の中のモヤモヤを整理するつもりで読んでみてください。
「まだOBD車検のイメージがつかめていない」という方には、制度のアウトラインをつかむきっかけになれば幸いです。
数字で見る“1台あたり作業時間”の変化
まずは、ある工場のモデルケースとして「1台あたりの平均作業時間」の推移をイメージしてみます。
2019年ごろまでは、一般整備と車検を合わせた1台あたりの平均作業時間は、およそ47分前後。
それが、電子制御の高度化や作業項目の増加とともに少しずつ伸び、2023年には1台あたり60分を超える水準に達しているイメージです。
ぱっと見では「10分ちょっと増えただけ」に見えるかもしれません。
しかし、1日に15台、20台と入庫する工場で考えると、1台あたり10分の増加は、1日あたり150〜200分、つまり2〜3時間の負担増につながります。
その結果として、
・夕方の仕上がりが後ろにずれ込む
・納車前チェックが慌ただしくなる
・最後の1〜2台が残業での対応になりがち
…といった“体感的な忙しさ”が生まれているわけです。
別の見方をすると、「昔と同じ台数をこなしているはずなのに、1日の終わり方が違ってきた」ということでもあります。
同じ20台でも、
・1台45分×20台=900分(15時間相当)
・1台60分×20台=1200分(20時間相当)
となり、単純計算でも“スタッフ一人分以上”の時間差が生まれます。
実際には、スタッフ数や営業時間の制約がありますから、この差は「どこかで誰かが残業して埋めている」か、「どこかの作業を駆け足で終わらせて帳尻を合わせている」か、という形で現場に乗ってきます。

グラフにすると、ここ数年の「じわじわとした右肩上がり」がよく分かります。
では、この“10分”はどこから生まれているのでしょうか。
どこに時間を使っているのか?作業内訳で見えること
1台あたりの時間を分解してみると、だいたい次のような内訳に分けられます。
・実際の整備作業にかかる時間
・診断機をつないだり、データを確認したりする時間
・お客様への説明や見積もり調整にかかる時間
・部品待ちや段取りの調整にかかる時間
昔は、この中でも「整備作業の時間」が大半を占めていました。
ところが最近は、「診断」「説明」「段取り」に使う時間の割合が少しずつ増えています。
モデルデータでは、整備作業そのものが全体の約45%、診断やOBDチェック関連が25%、お客様への説明や見積もりが15%
残りの15%が部品待ちや段取りに使われている、というイメージです。
この内訳から見えてくるのは、
「工具を握っていない時間」が確実に増えている
という現実です。
たとえば、ある1日の流れを思い浮かべてみてください。
朝イチで入庫した2台は、受付での聞き取りと見積もり作成に時間がかかり、ピットに入るまでにすでに30分近く経っている。
ピットに入ってからも、診断機をつなぎ、サービスマニュアルを確認し、部品を手配しながら作業手順を組み立てていく。
お昼前には「部品待ち」の車両が1〜2台、夕方には「説明を待っているお客様」が数人、という光景になっていないでしょうか。
とくに、診断と説明。
この2つは、お客様からは目に見えにくいにもかかわらず、現場の負担としては年々重くなっています。
そして今、その流れをさらに後押ししているのが、OBD検査付き車検の導入です。
OBD車検とは?整備士目線での“ざっくり整理”
ここで、OBD車検について一度整理しておきましょう。
詳しい制度解説ではなく、現場感に近い「整備士目線」でのイメージです。
従来の車検では、排気ガスやブレーキ、ライト、下回り、といった“目に見える部分”をメインに確認していました。
もちろん、現代の車でもそれは変わりません。
そこに追加されるのが、「車載診断装置(OBD)」を使ったチェックです。
簡単に言うと、
・車のコンピュータに故障コードが残っていないか
・排ガスや安全装置などに関わる重要なエラーが放置されていないか
を、診断機を通じて確認するステップが、車検の中に正式に組み込まれたイメージです。
「今までも診断機はつないでいたから、やることは変わらないのでは?」
そう感じる整備士の方も多いと思います。
ただ、OBD車検が“制度として”始まることで、
・「見ておいた方がいい」から「見なければならない」へ
・「工場ごとの判断」から「全国で同じ基準」へ
という変化が起きているのがポイントです。
この“義務化に近い流れ”が、1台あたりの時間にじわじわと効いてきます。
OBD車検前後で変わる1日の流れ
もう少しイメージしやすいように、OBD車検導入前後の1日を比べてみましょう。
ここでも、あくまでモデルケースとしてのイメージです。
導入前は、
・朝一番に車検車両を数台入庫
・灯火類、下回り、ブレーキ、排ガスなどをテンポよく点検
・追加整備が必要な箇所だけをピックアップして見積り
・OKであれば、そのまま整備作業へ
という流れが中心でした。
導入後は、ここに
・OBDチェックのタイミングをどこに入れるか
・診断機の台数に対して、車両の流れをどう合わせるか
・故障コードが出た場合の「再点検」と「説明」の時間をどこで確保するか
といった新しい段取りが重なってきます。
1台だけで見れば「数分の違い」かもしれません。
しかし、午前中に5台、午後に5台と車検をこなす工場であれば、その“数分”が1日の中で大きな波となって押し寄せてきます。
「最近、午後の予定が読みづらくなった」
「車検の台数は増やしていないのに、夕方の納車に追われる」
そんな感覚がある工場では、OBDに関わる時間が、気づかないうちにじわじわと積み上がっている可能性があります。
OBD車検が1台あたりの時間を押し上げる理由
では、具体的にどのような場面で時間が増えているのでしょうか。
大きく分けて、次のようなポイントがあります。
① 診断機を使う頻度と範囲が広がる
これまでも、エンジンチェックランプ点灯時や不調がある車両では診断機を使っていました。
OBD車検では、「特に症状がない車両」に対しても、OBDの状態を確認する機会が増えます。
実際の作業としては、
・車をピットに入れる
・診断機を接続する
・通信してデータを取得する
・必要な項目を確認し、記録に残す
という流れになります。
一台あたり数分〜10分ほどの作業ですが、これが車検台数分積み重なることで、1日のトータル時間は大きく変わります。
② 消えている“はず”のエラーを追いかける時間
OBDで確認したときに、過去の履歴や現在故障が記録されている場合、そのままというわけにはいきません。
・現在故障なのか、過去故障なのか
・ユーザーが気づいていないだけなのか
・すでに整備されているが、初期化だけされていないのか
こうした点を整理するために、追加の点検や試運転が必要になるケースもあります。
結果として、「診断→点検→再診断」という一連の流れが、1台あたりの時間を押し上げます。
③ お客様への説明時間が確実に増える
OBD車検では、
「警告灯は点いていないが、データ上はエラーの履歴が残っている」
というケースも少なくありません。
その際には、
・今すぐ危険なのか
・様子を見てもよいのか
・どの程度の費用と時間がかかるのか
・放置するとどういうリスクがあるのか
を、お客様に分かりやすく説明する必要があります。
「ランプが点いていないのに、なぜお金と時間がかかるのか」
という疑問を持つユーザーに対して、丁寧に説明していく。
このコミュニケーションに、思っている以上の時間が必要です。
説明が不十分なまま作業だけ進めてしまうと、後から「そんな話は聞いていない」「前の車検では言われなかった」といった誤解やクレームにつながりかねません。
結果として、「時間をかけてでもきちんと説明した方が安心だ」という判断になり、1台あたりの滞在時間はさらに伸びていきます。
④ 作業フローそのものの見直しが必要になる
OBDのチェックを車検フローに組み込むためには、
・どのタイミングで診断機をつなぐのか
・どのピットで誰が見るのか
・結果をどこに記録するのか
・再検査が必要な場合の流れをどうするか
といった“段取りの設計”が欠かせません。
フローが固まるまでは、「あの車、もうOBD見た?」「このコード、どうする?」といった確認のやり取りが増え、結果として1台あたりの滞在時間が長くなりがちです。
特定のスタッフに知識やノウハウが偏っている場合は、その人の手が空くのを待つ時間も増えます。
これらを積み重ねていくと、「ほんの数分」のはずだったOBD対応が、1台あたり10分近い差となって現れるケースも出てきます。
電子化とOBDだけではない、“見えない時間”の増え方
もちろん、1台あたりの時間が伸びている理由は、OBD車検だけではありません。
電子制御の高度化や車両構造の複雑化によって、
・パネルを外すだけで時間がかかる
・バンパー脱着が前提の作業が増えた
・センサーの位置調整や学習が必要になった
といった“手順の増加”も、大きな要因です。
また、ユーザーのニーズの変化も、時間の使い方に影響しています。
・「できるだけ安くしてほしい」
・「純正でやりたい」
・「安全装備はしっかり見ておいてほしい」
・「この機会に劣化しているところは全部見ておきたい」
こうした要望をバランスよく叶えるためには、見積りや説明にかける時間も増えます。
結果として、
・実際の整備時間はさほど変わっていないのに
・その前後にかかる“見えない時間”が増えた
ことで、1台あたりのトータル時間が伸びている工場は少なくありません。
1台あたり時間の“見える化”が工場をラクにする
では、この流れにどう向き合えばよいのでしょうか。
ポイントになるのは、「なんとなく忙しい」を「どこに時間を使っているのか」に変えていくことです。
具体的には、
・車検と一般整備で、それぞれ1台あたり何分かかっているか
・診断と説明に使っている時間が、全体の何割か
・OBDチェックにかかる時間が、どれくらいか
を、ざっくりでも数値として把握してみることです。
紙集計でも、簡単な表計算ソフトでも構いません。
数 日〜1週間分を記録するだけでも、
「思っていたより説明時間が長い」
「特定の時間帯にだけ作業が詰まっている」
といった傾向が見えてきます。
そこから、
・説明をまとめた資料を作って時間を短縮する
・OBD診断は朝イチにまとめて行う
・車検の受付時間をあえてずらす
・診断機の台数とピットの回し方を見直す
といった対策を打つことで、「同じ人数・同じ台数でも、1日の終わり方が変わってくる」工場は少なくありません。
「とにかく台数をこなす」から一歩進んで、
「1台あたりの時間を意識して回す」ことで、現場の疲れ方も変わってきます。
時間に追われないための“先回り投資”という考え方
1台あたりの時間が伸びているのは、整備士の手際が悪くなったからではありません。
制度の変化、車両の変化、ユーザーのニーズの変化。
これらが重なり合った結果として、必要なステップが増えているだけです。
だからこそ、工場としては
・OBD車検にしっかり対応できる診断機やツール
・情報を共有するための仕組みやマニュアル
・説明時間を減らすための案内資料
といった“時間を生み出すための投資”を、計画的に進めていくことが重要になります。
とはいえ、目の前の部品代や人件費、家賃や光熱費に追われる中で、
「将来の時間をラクにするための投資」になかなか踏み出せない工場も多いはずです。
そんなときに選択肢の一つとなるのが、売掛金を前倒しで資金化するファクタリングのような仕組みです。
将来入ってくる売上をうまく活用することで、
・OBD対応のための設備更新
・診断機の増設
・人材育成やマニュアル整備の時間確保
といった「時間を生み出すための一歩」を、先に打ちやすくなります。
Cool Pay Auto は“時間をつくる投資”を支えます
クールペイが提供する二者間ファクタリングサービス「Cool Pay Auto」は、自動車販売店や整備工場、バイクショップといった事業者さまが、将来の売掛金を有効に活用できるよう設計されています。売上の入金タイミングと、仕入れや人件費の支払いタイミングは、どうしてもズレが生じがちです。
OBD車検への対応や設備更新を進めたいと思っていても、「今は資金に余裕がないから」と先送りしてしまうケースは少なくありません。
ファクタリングであれば、売掛金を早期に資金化できるため、
・診断機やテスターの導入・増設
・ピット環境やネットワーク環境の整備
・スタッフの研修や勉強会の時間確保
といった「将来の時間をラクにする投資」を前倒しで行いやすくなります。
無理に借入額を増やさず、必要なタイミングで必要なだけ資金を確保できる。
その結果として、現場の負担を少しずつ軽くし、長く安心して働ける環境づくりにつなげていくことができます。
まとめ:1台あたりの時間は“増えた”のではなく“必要になった”
1台にかかる時間が伸びていると聞くと、どうしてもネガティブなイメージが先に浮かびます。しかし実際には、
・車の安全性や快適性が上がったこと
・電子制御やOBDによって見えない不具合も拾えるようになったこと
・ユーザーへの説明が丁寧になったこと
の裏返しでもあります。
大切なのは、「時間が増えたこと」を責めるのではなく、
「何に時間を使っているのか」を数字で把握し、
「どこを工夫すれば、現場の負担を減らせるのか」を考えていくことです。
OBD車検の本格化は、整備現場にとって新しい負担であると同時に、
「きちんと診ている工場」として信頼を高めるチャンスにもなります。
1台あたりの時間が伸びている今だからこそ、
時間の使い方を見直し、現場の努力がきちんと評価される仕組みづくりに踏み出していきましょう。
クールペイは、そうした工場の挑戦を、これからも資金と情報の両面から支えていきます。
整備工場・車&バイク販売店を応援するファクタリングサービス
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